2. どういうきっかけでコンクリート分野に?
N氏
さっきの話の流れから、逆にここで聞きたいなと思ったのは、何故いろいろな分野の中からコンクリートを仕事に選んだのかなって。そこに「女の人だから」っていうような原因っていうか、因子が含まれているのかいないのか、と思いました。
司会
まず、T先生は、教員かつ研究者なわけですが、なぜコンクリートを選んだかっていうのは? 何かこだわりがあったのでしょうか?
T女史
振り返ってみると、小さい頃、コンクリートにぶつかったあの痛さを思い出したり、大学に入って概論の授業を受けたとき、「なんでこの人、こんなに一生懸命コンクリートのことを話しているんだろう」っていう、コンクリートというものを研究する人が居たんだっていう衝撃がありました。3年生になって研究室を選ぶときに、植物が生えるコンクリートというのを見せてもらって、「これがやりたい」と思い、材料系の研究室を選びました。
時間的には順番が逆になるんですけど、そういう、何となく人生の中で布石があって、植物が生えるコンクリートを見たとき、自分はこういうことをやりたくて土木学科に入ったっていうのと、全部つながったっていうのがコンクリートでした。
正直、学位を取る最終学年ぐらいに、コンクリートの世界から抜けようと思ったことがありました。それは、周りに女性がほとんどいなくて、自分がどう生きればいいか分からなかいっていうのが一番の理由だということに気付いたんです。
じゃあ自分がちょっと頑張ってみることで、私の生き方を見て、学生さんや後輩たちが、ああいう生き方もあるんだなっていうふうに思ってくれたらいいなと、コンクリートの世界に残ろうと思って。で、もともと教員になりたかったので、そこから教員という道が開けていきました。
今では、リケジョからドボジョっていうのがどんどん広がっていって、実はすごくたくさんの女性の先輩たちが社会で活躍されていたっていうのを知って、やめなくて良かったなっていうのと、そういう人たちとつながる機会がなかったので、コンクリートを専門に研究している女性教員はやっぱり少ないんですけど、そういうのを伝えられるような立場で後輩を育てていきたいなっていうのは、今の私の『コンクリートと私』っていう感じです。
司会
植物がキーワードだったいうところに、なんかちょっと。
N氏
女性らしさみたいな。
司会
一度やめようかと思ったとき、例えば他に相談できる同じような立場の先輩の女性の方がおられれば、いろいろ意見が聞けたかなっていうのはあるでしょうね。
T女史
そうですね。
司会
そういう点でこのリレーエッセイ『コンクリートと私』が、そういう人たちに対して、何かメッセージが送れればいいとは思うんです。
建設会社にお勤めのKさんの場合はいかがでしょうか。
K女史
私の場合は、建設会社に勤めていた父の影響で、もともと建設業の仕事に関心があり、現場で働きたいという思いがありました。
学生の頃、既存コンクリート構造物の劣化が社会問題となっていたので、モノづくりの要となるコンクリートに関する知識を習得し、モノづくりから維持管理まで担当できる仕事に就くことで、その問題解決に取り組みたいと思う気持ちが強くなったのがきっかけです。
司会
コンサルタントにお勤めのIさんはいかがですか。
I女史
私は大学に土木第1希望で入ったんで、それはちょっとレアなケースかなと思うんです。建築のほうが人気にあることが多いので。ただ、私は橋が好きだったんで、橋を設計したいなと思って。一応、瀬戸大橋世代なんで。どっちかいうと、あこがれたのはメタル系なんですけど。
N氏
一緒や。
I女史
そうですか。だから大学の研究室でメタル系の研究室に入ったんですけど。
「合成構造を研究したら?」と教授に提案されて、床版としてコンクリートが付いてきたんです。「あれ、あんまりコンクリートは得意じゃないんだけどな」と思いながら、結局それでなんとか卒業して。で、入社した当初もコンクリート構造物の維持管理系の部署に配属されて、ボロボロになったコンクリートや鉄筋を、叩いたり落としたりしてきたんです。
そのうち構造物の設計がしたくなって、部署を異動させてもらったり、やってきた調査の経験を生かして、コンクリート診断士を取ったり。結局、技術士もコンクリートで取りましたし。はじめはできれば避けたいなと思いながらも、不思議とずっとコンクリートが付いてくる感じでしたが、なんだかんだやっていくうちに、やればやるほど面白いので、今は気に入ってやっています。
司会
「やればやるほど面白い」、自分の中でそういう位置付けになったということですね。
I女史
そうですね。
司会
それぞれきっかけはいろいろあるようですが、現在はコンクリートに関わる仕事を楽しみながらされている、というようにお聞きしました。コンクリートに関わるさまざまな分野で仕事をされている女性達からいろいろな話題のエッセイが期待できそうですね。
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